ESGがベンチャー企業でも必要なのは、借り入れを効果的にするため

最近ESG(Environment/Social/Governance)の重要性が企業的に高まっているけれども、その最大とも言える理由が、「借り入れを効果的にするため」... 言い換えると、「借金のため」だったりする。

これ、技術者には分かりにくい話なので、あらためて説明させて頂くことにする。

もちろん環境(Envrionment)は大切だけれども、その視点をさらに拡大し、借り入れなど具体的な影響を企業へ与えてコントロールしようというコンセプトである。何しろ企業の多くが株式公開しているけれども、その目的は資金調達の円滑化だ。

しかしさすがにIPO(Initial Public Offering:株式公開)をコントロールすると、経済活動を不活性化させかねなない。それに出来ることならば、非公開企業もコントール下におきたい。

そんな訳で、ESGで検索をかけると、銀行や証券会社の名前が多く登場するのである。

小銭に笑う者は小銭に泣く

かつて高校時代の仲間たちだったと思うけれども、"倹約少女コゼニーレ" とやらが流行したことがある。窓枠(サッシ)にホコリが溜まっていると、お屋敷で働く少女ドラマの主人公は、「コゼニーレ、ちゃんと掃除をしていないじゃない!」とお嬢様に叱られる経験をする。

それと同じような感じで、「コゼニーレ、積み立てNISAを頑張るのよ」とか、「コゼニーレ、また定期預金にするのを忘れたのね」といったように使った。まだポイ活(ポイント活用?)といった用語も生まれておらず、バブル期のおかげと言えるかもしれない。

しか小銭に笑う者は、小銭に泣く。技術者というのは、技術的なブレークスルーによって夢物語を実現して一攫千金することが存在意義とさえ言えるけれども、実は成功率が極端に低い。

だから企業は大きくなればなるほど、手元に余ったお金は投資に回したり、世界で最も税金の安い国に本社を置いたり、あれやこれやと節約生活に精を出す。たとえば売上成長率が3%のメーカーだったら、分野によっては製造原価を3%下げることに成功しただけで、売上成長率3%に匹敵してしまうことがある。

もちろんメーカーというのは、販売するものを製造する訳だけれども、売れるまでは在庫(インベントリ)して会計処理される。これが日本にあるか、米国にあるかによって決算内容が大きく変わってしまうケースもある。

だから技術者はベテランになったり、昇進してマネージャーになるほど、経理部門とか資材部門とのやりとりに注意を払うようになる。たとえ製造メーカーといっても... 製造メーカーだからこそ、購買や経理処理は重要になって来る。

ESGと借り金れ金

さて製造メーカーの場合、基本的に社外から材料を調達して、製品やサービスを開発/製造して、お客さまへ販売する。技術者には知らない者が多いけれども、実はこの一連の流れで借金することが必要となる。

だって、ねえ... 材料の仕入れは、飲み屋のツケみたいな訳にはいかない。材料を購入して納品されたら、購入契約時の取り決めに従って、一定期間以内に支払い手続きをする必要がある。

どんなに大きな企業だって... というか、大きな企業ほどお金の運用に熱心になる。わずか数%であっても数億円になれば、プロジェクトを一つ起こすことだって可能だ。そうすると利回りの良い長期的な国債などを購入して、材料仕入れなどは利子の低い借金などを利用する。

大企業はローリスク・ローリターン戦略が基本であり、会社のブランドなどは立派な資産として、遠慮なく利用する。製造メーカーといっても例外ではなく、なんだか投資会社のようなことをする。

そしてベンチャー企業(スタートアップ企業)は大企業のように手持ち資金など持っていないから、材料の仕入れは借金頼みになる。めでたく製品が売れたら入金されるので、そのお金で借金返済する。

つまり企業というの大企業でもベンチャー企業であっても、「借り入れ金」というか「借金」が必要となる。かつて僕の上司は住宅ローンを使用する一方で投資信託をやっていた。投資信託で儲かるお金の方が、ローンの利息よりも大きいというリクツだ。

で、こうなって来ると「どこから低利子といった有利な条件で借金するか」という点が重要になって来る。この段階になって、初めてESGの重要性が実感できるようになって来る。

何しろ金融機関にしてみれば、貸付先が豊富に存在するならば、貸付審査条件にESGを含めると社会的存在であることを宣伝できる。だから最近では、ESG対応をしないと「借り入れ」も難しくなって来る。

そしてESG系ファンドであれば、そもそもESGを謳って資金調達を順調に実現できており、低金利で貸し出すことが可能になる。そうすると今までESGを馬耳東風と聞き流していたCEOなど経営陣としては、ESG対応を見逃すことが出来なくなって来る。ESG対応で設備更新などの費用が必要になっても、低金利な借り入れ金の方が魅力的になるという図式だ。

またもう少し視野を広くすると、そもそもESGが目指すのは企業価値の向上を含んでいるため、どうしても「お金の話」が関係して来る。それゆえに経産省が推進する研究会の座長が、大学のCFO教育推進センター長になったりする。

ともかく企業に対して法規制以上のことを求めようとすると、「金の力」も使わざるを得ない。そして下手すると法律以上に影響力を持つようになる。

だから最近は急速に、企業におけるESG対応が進み始めているという訳である。

まとめ

以上の通りで、昨今のCEOたち経営陣は、有利な借り入れ(借金)を実現するという目的があるため、ESG対応へ前向きになっている。もちろんESG対応というのは企業経営の改善に繋がるし、お客様が入札条件にESG関連の内容を含めたとしても、問題なく入札できるというメリットがある。

また個人的な感覚だけれども、米国では節電という概念が広まっていない。帰宅時に自分の業務用パソコンを電源オフする習慣を持っていないのだ。そういう米国企業にとって、ESGのようにEnvironment(環境)のみならず、Social(企業組織)やGovernance(経営管理)までスコープを拡大したESGは魅力的だったりする。

なおESGというのは、放っておけば利益最大化を目指しかねない企業を、お行儀よく振る舞うようにコントールしようとする枠組みである。「コントロール」なので、多分に政治的な要素も含む。だから現在はブームになっているけれども、いずれは廃れるというか、さらに新しい概念などが登場する可能性もある。

それにしても不正決算などまで改善しようとするフレームワークだから、複雑で先行きが不透明になってしまう。そんな訳でESGに関しては、今後も継続的に状況把握していくことにしたい。

それでは今回は、この辺で。ではまた。

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記事作成:小野谷静